配送による製造業ビジネスの価値向上、鍵を握る
「倉庫管理システム(WMS)」
製造業のビジネス価値の根幹には、市場に提供する製品の“QCD(品質、コスト、納期)”があります。一般に日本企業では、QCDのうち品質とコストに対する改善意識に関しては極めて高い傾向が見られます。納期(デリバリー)に関しても、取引先との強固な関係の中で決めた納期を厳守する意識に関しては海外企業に比べて高いと言えます。ただし、納期を積極的に短縮したり、サプライチェーンに何らかの付加価値を付けることでビジネス価値を高めることにはそれほど熱心ではありませんでした。納期に注目したイノベーション創出には、改善余地が大きく残されており、製造業のビジネス価値の向上に向けて注目すべき取り組みとなります。
工業製品の納期によるビジネス価値向上を追求するうえで、極めて重要性の高い業務のひとつが倉庫管理です。製品の生産状況と市場での需要変動を最適調整しながら、商機を逃さず、無駄のない製品管理を行う必要があります。
そして入庫・在庫・出荷・棚卸など倉庫でのモノの動きと状態を一元管理する役割を担っているのが「倉庫管理システム(Warehouse Management System)」です。この記事では、WMSの機能と導入メリットから、納期でビジネス価値を高めるために利用する多様な情報システムとの連携、配送でのさらなる価値向上に向けた新技術などを紹介します。
RX Japan株式会社では、日本最大級の製造業の展示会「ものづくり ワールド」を東京で行うほか、大阪・名古屋・福岡でも開催しております。その中でも、構成展の一つである「製造業DX展」では、製造現場や工場内でのDXを推進するIT製品やサービスが出展します。
展示会場では、製造業の最先端事例や設計開発の最前線の話題が学べる併催セミナーも開催しています。また、来場だけでなく展示会への出展も受け付けております。気になる方は、お気軽にお問い合わせください。
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デリバリーの巧拙は、企業競争力と顧客提供価値に大きく影響
デリバリーの巧拙は、企業競争力と顧客提供価値に大きく影響
デリバリーで大きく変わる工業製品の価値
工業製品の価値は、多様な要因が絡み合って決まっています。中でも、「品質(Quality)」「コスト(Cost)」「納期(Delivery)」の3要因、いわゆる「QCD」は、あらゆる業界の工業製品に共通する最重要要因と言えるでしょう。
ただし実際には、工業製品のユーザーが購入する製品を選択する際には、まずは品質やコストに注目する人がほとんど。最初に納期に注目する人は少ないかもしれません。特に民生製品ではその傾向が高くなります。実際、気に入った電気製品を手に入れるために店頭に並んでいる商品を買わずに他店から取り寄せたりメーカーに発注したり、日用品を買う際には特売日を狙って買い溜めておくといった消費行動はよく見られます。
とは言っても、欲しい時に、欲しい商品が、リーズナブルな価格で入手できれば、当然顧客満足度はより高まることでしょう。また、気に入った商品がない時に買い控えされてしまうと、他社製品に気移りしてしまったりして、小売店やメーカーにとっては貴重な商機を逃してしまうことになりかねません。
一方、ビジネスや商品の生産に必要な設備や物資などを購入する企業間(B2B)の取引では、納期の重要性が格段に上がる傾向にあります。さまざまな業界で、必要物資の在庫最小化によって生産性を向上させる手法が根付いているからです。必要なモノを、必要な時に、必要な量だけ生産する「ジャスト・イン・タイム(JIT)」での生産は、安定的かつ変化に対して柔軟な必要物資の調達が可能な体制の構築が大前提となっています。
工業製品の納期は、配送や倉庫管理など製品が完成した後の業務の進め方に大きな影響を及ぼします。製造業では、設計や生産での価値創出を中心に考えがちです。しかし、製品が完成した後に効果的で効率的な業務を行うことができれば、ビジネスの競争力をさらに高めることが可能になります。Amazonや楽天のようなネット通販は、まさにこうした配送や倉庫管理でイノベーションを起こして、小売業の領域において競争力の高い新たなビジネスを展開することに成功しました。また、パソコン業界のDellやアパレル業界のユニクロもまた、商品開発・生産、そして配送・在庫管理を一元化することで、付加価値と効率性の高いビジネスを実現しました。
リアルタイムでの正確な倉庫管理は、競争力と価値の向上に必須
工業製品の納期を短縮したり、適正化するうえで、倉庫管理は極めて重要な役割を果たします。効果的な倉庫管理は、生産プロセス全体の効率化をもたらし、結果として、納期の短縮や適正化を実現します。さらに適切な倉庫管理を実践することによって、生産計画の見通しが良くなり、不測の需要変動や納入遅延による生産の滞りを最小限に抑えることが可能になります。
また、必要な材料や部品を、すぐに利用できる状態に整えておき、生産プロセスの遅延や停止を回避できます。これによって、トータルなリードタイムの短縮が可能になり、納期の厳守率を向上させることができます。
加えて、余剰在庫や不足在庫によって生じるコスト増大や事業機会の逸失を最小限に抑制できます。ビジネスを営むために必要な資金の有効活用につながり、企業の収益性向上に貢献します。
ただし、多種多様で膨大な数の部品や材料、最終製品が日々倉庫を出入りする中で、効果的で効率的な倉庫管理を実践することは、それほど簡単ではありません。倉庫管理の業務は、思いのほか、手間とコストが掛かるのが通常です。膨大な作業に忙殺されながら、管理対象となるモノの動き一つひとつに目配りし、緻密に確認・記録して最適管理することが求められます。納期による製品の価値向上をもたらす倉庫管理の業務を実践するためには、業務の省人化・自動化・高付加価値化を支援するデジタルツールや情報システムの活用が必須になります。
デリバリー業務のDXに欠かせない倉庫管理システム(WMS)とは
デリバリー業務のDXに欠かせない倉庫管理システム(WMS)とは
倉庫管理に関わる多様な業務を一括管理するWMSとは
近年、デジタルツールや情報システムを導入して、倉庫管理とそれに付随する業務の効率化と高付加価値化を図る企業が増えてきました。そして、倉庫や物流センターにおける作業とモノの出入りを管理する役割を担う、物流業務の効率的管理に特化した情報システムがWMS(Warehouse Management System)です。WMSで管理する項目は大きく3つあります。
在庫管理
倉庫内の在庫をリアルタイムで管理することで、正確な在庫状況を把握します。また、在庫の追跡(トレーサビリティ)、ロケーションの管理、ロット管理、SKU(Stock Keeping Unit:在庫管理上、品目数を数える際の最小単位)管理、温度管理なども行います。
入出庫管理
入庫時に、商品の検品、ロケーションへの保管作業を支援します。出庫時には、ピッキング、梱包などの出荷作業をミスなく効率的に実施できるように支援します。特にピッキングは倉庫業務の効率に大きな影響を及ぼす部分であり、ここでの効率化が極めて重要になってきます。
進捗管理
倉庫内での作業の進捗を可視化し、遅れを生じた場合には計画を変更する作業を支援します。また、予定と実績のデータを蓄積し、作業計画を策定する際の精度を向上させることも重要になります。蓄積したデータは、各種帳票類の発行や業務改善に向けた分析(在庫日数、ABC分析、コスト分析など)に利用します。
倉庫管理にWMSを導入するメリット
倉庫管理でWMSを活用することによって、以下のような多様なメリットが得られます。
まず、倉庫業務の効率向上が期待できます。例えば、在庫の追跡やロケーションの把握などでは、バーコードなどを使用してモノを管理すれば、手作業での書類作成や目視での在庫チェックと言った煩雑な業務を自動化できます。これによって、作業時間を劇的に削減することが可能になります。システムによる作業の自動化を推し進めれば、入荷検品ミスやピッキングミス、送付先住所の記載ミスなどのヒューマンエラーを大幅に削減できます。これによって、ご出荷や在庫差異などのトラブルの発生を防止し、顧客満足度を向上できます。
また、在庫管理の最適化も可能になります。WMSを使用すれば、商品の在庫状況をリアルタイムで確認できるようになるため、適正在庫量を維持できます。これによって、過剰在庫や在庫切れによる機会損失を防ぐことが可能です。また、ロケーション管理機能を活用すれば、在庫の保管効率を向上させて、在庫スペースを有効活用できるようにもなります。フリーロケーションでの保管による省スペース化も実現します。
加えて、倉庫での保管などに要するコスト削減効果も期待できます。WMSの活用による作業の効率化によって、より少ない人数で倉庫業務を遂行可能になるからです。これによって、人件費が削減します。さらに在庫の最適化や作業効率の向上によって、過剰在庫に要するコストや、ミスによる再作業のコストなどを削減することができます。
さらに、倉庫管理に伴うデータの活用や外部システムとの連携も可能になります。WMSを活用すれば、倉庫内の在庫状況や作業進捗が、リアルタイムで可視化されます。これによって、迅速な意思決定や問題に対処できます。そして、倉庫制御WCS(Warehouse Control System:倉庫制御システム)、WES(Warehouse Execution System:倉庫運用管理)、TMS(Transportation Management System:輸配送管理システム)、OMS(Order Management System:受注管理システム)、さらには生産管理システムなどの外部システムや、マテハン、ロボットなどの機器と連携することで、倉庫内のあらゆる情報の統合管理が実現します。
システム連携で、製造業ビジネスを全体最適化
システム連携で、製造業ビジネスを全体最適化
タイムリーな供給に向けた、生産管理システム・OMS・TSMとの連携
WMSを、OMSやTSM、生産管理システムと連携させることで、市場でのニーズに変動に柔軟かつタイムリーに対応した、生産・供給が可能になります。これによって、生産性向上や無駄の削減が実現すると共に、ビジネス機会を逃すことなく顧客満足度も高めることが可能になります。
OMSを連携させることで、注文処理の効率化と迅速化が実現します。OMSによって注文状況をリアルタイムで把握し、WMSでその情報に基づいてピッキングや梱包の指示を速やかに出すことが可能になります。これによって、物流現場での作業ロスを最小限に抑えることができます。さらにOMSとWMSの間でやり取りする注文データの送受信を自動化すれば、手動入力やデータ転記作業が大幅に削減できると共に、ヒューマンエラーの発生も抑制されます。
また、在庫状況や配送状況をリアルタイムで正確に把握できるため、納期遵守率が高まり、顧客満足度が向上します。急な注文変更やキャンセルにも迅速に対応できるため、顧客からの信頼度が高まります。
さらに、注文情報や在庫状況、出荷状況など、複数のシステムに分散していたデータを統合し、企業全体でデータを共有・活用できるようになります。これによって、経営者や管理者がリアルタイムで経営判断などに必要な情報を把握できるようになり、意思決定の速度と精度を向上させることができます。
一方、TMSを連携させれば、WMSから得られる出荷情報を基に、TMSでより効率的な配送ルートや積載計画を策定可能になります。これによって、配送コストの削減や納期の短縮が実現します。
また、TMSから得られる配送状況の情報をWMSと連携させることによって、倉庫側でも配送の進捗をリアルタイムで把握できるようになります。これによって、顧客からの問い合わせに、迅速かつ正確な回答が可能になります。
そして、生産管理システムをWMSと連携させれば、生産計画に応じて、必要な原材料や部品の在庫を適切管理できるようになります。これによって、過剰在庫や在庫切れを防ぎ、在庫コストの削減と生産効率の向上が実現します。
また、WMSから得られる在庫情報を利用して、生産管理システムでより正確な生産計画を立てることが可能になります。これによって生産リードタイムの短縮や生産性向上が進みます。特に、リアルタイムでの連携を実現できれば、必要な資材や部品を最適なタイミングで届けるための精密な指示が可能になります。これによって、ジャスト・イン・タイム生産や同期生産などの高度な生産方式が適用可能になります。
省人化・生産性向上に向けた、WES・WCSとの連携
一方、WMSを、WESやWCSと連携させれば、倉庫内での業務の省人化・生産性向上が可能になります。納期での価値向上に要するコストを削減できるだけでなく、少子高齢化による人手不足への対応策としても重要なアプローチになります。
WMS、WES、WCSの3つを統合・連携させることで、注文の受付から出荷までの全プロセスをシームレスに管理・制御できるようになります。これによって、業務の透明性が向上し、問題発生の早期発見と迅速対応が可能になります。また、3つのシステムから得られる豊富なデータを統合・分析することによって、より高精度な需要予測や在庫最適化が可能になります。そして、経営層は戦略的な意思決定を下すことができます。
それぞれのシステム間の連携を少し詳細に見てみましょう。まず、WESを連携させることによって、WMSが提供する在庫情報や作業指示をWESで自動受け取りし、リアルタイムでの作業の優先順位付けとスケジューリングが可能になります。これによって、倉庫内の作業フロアの最適化が可能になり、突発的な需要変動や繁忙期にも柔軟対応できるようになります。また、WESでは過去の実績データを分析し、当日の作業量や終了時間を予測することが可能です。この情報を活用すれば、WMSにおいて適切な人員配置や設備の稼働計画を立案できるようになります。結果として、リソースを最大限まで有効活用することが可能になります。
そして、WCS とWMSをWES経由で連携させれば、在庫情報や出荷指示に応じて、自動倉庫や搬送設備を最適制御できるようになります。正確かつ迅速な入出庫作業が実現し、在庫精度の向上と作業効率の改善が実現します。最適な動作計画を立てて、設備稼働率の向上やエネルギー効率の改善も図れます。また、WCSでは設備の稼働状況をリアルタイム監視しています。その情報をWMSに転送すれば、倉庫全体の作業進捗を正確に把握し、必要に応じて作業計画を柔軟調整できるようになります。
WMSの効果をさらに高める最新技術
WMSの効果をさらに高める最新技術
スモールスタートで柔軟対応可能なクラウドベースWMS
工業製品の価値を、納期の改善から高めるうえで重要な役割を果たしているWMSですが、より高い導入・活用効果の実現を目指して技術が進化し続けています。ここでは、WMSの効果をさらに高める最新技術を紹介します。
まず、近年ではクラウド型WMSがサービスとして提供されるようになりました。クラウド型WMSを導入することによって、さまざまなメリットが得られます。何より、初期コストを最小化し、なおかつ適用業務の規模拡大に合わせてスケーラブルにシステムを大きくすることが可能になります。これによって、スモールスタートで、利用する目的や適用業務の変化に応じた最適なシステムを、最小限のコストで利用できるようになります。また一般に、クラウド型WMSの機能は頻繁にアップデートされるため、常に最新の機能を迅速に利用可能です。
AIやIoT、ロボティクスの導入で管理精度を向上
AIや機械学習を活用した高度な情報処理機能がWMSに組み込まれるようになったことも、近年顕著に見られる動きです。AIなどを活用すれば、在庫管理の精度向上、需要予測の改善、ピッキングルートの最適化などが可能になります。これによって、過剰在庫や欠品のリスクを低減し、作業効率を大幅に向上させることができます。
さらに、IoTデバイスをWMSと連携させて、人手によるデータ入力不要で、よりキメ細かく、高精度なデータをリアルタイムで収集する動きも目立ってきています。これまでにも、バーコードなどを活用したデータ入力が利用されていましたが、近年ではRFIDタグやスマートセンサーなど、より高度なデータを常時収集できる仕組みが導入されてきています。在庫追跡や作業進捗をリアルタイム管理する際などで、可視性の向上や作業効率の改善、人的ミスの削減が実現します。
WMSおよびWES、WCSを連携させて、なおかつそれによって自動化ロボットを連携制御することによる、倉庫作業の自動化や省人化を推し進める動きも活発になってきています。既に、AGV(無人搬送車)やピッキングロボットを導入する企業も増えてきています。自動化ロボットの進化によって、無人での24時間稼働のミスのない倉庫業務の実現が視野に入りつつあります。こうした取り組みをリードしているのがAmazonです。同社では、自動化設備を常に進化させ続け、自動化できる作業は自動化し、どうしてもロボットでは対応できない部分にだけ人を配置するような倉庫を作り出しています。
まとめ
まとめ
工業製品の価値を高めていくための切り口として、納期は、改善余地が大きく残されていると言えます。例えば、この領域での価値創出でリードしているAmazonでは、プライム会員への「お急ぎ便」などの特典サービスや定期便サービスの提供や出品者の受注前商品を預かり管理するサービス、最適な配送手段の自動選定など、納期や配送で顧客満足度を高める様々な仕組みを実践しています。こうした高度なサービスを実現する上で、WMSは重要な役割を果たします。
RX Japan株式会社では、日本最大級の製造業の展示会「ものづくり ワールド」を東京で行うほか、大阪・名古屋・福岡でも開催しております。その中でも、構成展の一つである「製造業DX展」では、製造現場や工場内でのDXを推進するIT製品やサービスが出展します。
展示会場では、製造業の最先端事例や設計開発の最前線の話題が学べる併催セミナーも開催しています。また、来場だけでなく展示会への出展も受け付けております。気になる方は、お気軽にお問い合わせください。
●ものづくりワールドの出展・来場に関する情報はこちら
執筆者プロフィール
伊藤 元昭
富士通株式会社にて、半導体エンジニアとして、宇宙開発事業団(現JAXA)の委託による人工衛星用耐放射線半導体デバイスの開発に従事。日経BP社にて、日経マイクロデバイスおよび日経エレクトロニクスの記者、副編集長、日経BP半導体リサーチの編集長を歴任。
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