雑多な取り組み課題の合理的な優先順位付けを支援する
「ABC分析」

製造業の業務の中には、優先順位付けを意思決定して行う業務が数多くあります。製品やサービスの価値向上を実現するためには、既存業務の中に潜む、さまざまな課題を解決していく必要があります。より効果的かつ効率的な価値向上を目指すためには、取り組むべき課題に合理的な優先順位付けをする必要があります。ただし、製品や業務に対する要求は、日々刻々と変わり続けていくのが常です。さらに近年では、市場環境や製品に投入する技術が劇的に変化しています。このため、熟練したエンジニアや現場担当者でも、過去に培った勘や経験だけでは適切な意思決定を下せなくなってきています。

莫大な量のデータを解析して、優先的に取り組むべき事項を洗い出すためのフレームワークのひとつに「ABC分析」と呼ばれる手法があります。取り組むべき課題の原因や発生頻度を可視化する「パレート図」などと共に、データに基づく合理的かつ客観的な業務の優先順位付けする際に利用されます。思い込みや固定概念を払拭して、効果的かつ効率的に成果を挙げるために不可欠なデータ分析手法だと言えます。

この記事では、製造業でのABC分析の活用メリット、分析の実践手順と注意点、さらには効果的かつ効率的な分析を支援するツールなどを紹介します。

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 製造業には優先順位を意思決定すべき業務が数多くある

製造業には優先順位を意思決定すべき業務が数多くある

選択と集中は、製造業ビジネスの価値向上に向けた中心課題

製造業には、同じ商品を、同じような手法で作り続けるだけでビジネスが成立している企業はほとんどありません。いかなる業界であっても、商品に投入される技術や生産に利用する技術、市場環境は、常に多面的に進化・変化し続けています。このため、ビジネスの維持・成長には、技術トレンドの変化や時々の社会・時代の要請に応える新たな取り組みを継続的に実施していく必要があります。

しかし、企業の経営資源(ヒト、モノ、カネ)は有限です。大きな成果が得られるビジネスを展開するためには、取り組むべき課題の中から、経営資源を効果的かつ効率的に生かして望ましい成果が得られる業務を、合理的かつ客観的に見極めることが極めて重要になります。

生産すべき商品と量、改善すべき業務、資金投入すべき開発プロジェクトなど、製造業には、優先順位を意思決定する場面が多くあります。そして、こうした意思決定の一つひとつを適切にこなすことによって、より高い成果を目指すことになります。

勘と経験に頼る選択から、データに基づく意思決定へ

製造業に限らず、いかなる業務や課題解決に経営資源を投じるべきか、適切な優先順位をつける際には、経営者や業務を熟知するベテラン人材の経験や勘に頼りがちになっているのではないでしょうか。確かに、長年にわたる成功と失敗の経験と、それを背景に培った方法論や感性は、取り組み対処を決めるうえで効果的なことは確かです。しかし現代では、利用する技術の進歩がますます急になり、市場環境もより大きく変化するようになりました。過去の経験などを基にした判断が通用しない場面が増えてきているように思えます。

現在、製造業において「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を推し進め、業務の中で取得する多様なデータを活用した意思決定を重視するようになったのには、こうした変化に対する適切な対応が求められていることが背景にあります。客観的で合理的なデータを利用することで、実は通用しなくなっている常識や固定概念を排除し、現実に即した意思決定を進める狙いがあります。データから抽出できる示唆に、経験豊富な人材の判断を加味することで、より的確な意思決定ができるようになります。

データを活用して、業務の中で頻繁に出てくる優先順位付けする際に適用するポピュラーなフレームワークとして「ABC分析」があります。1950年代に、General ElectricのH. Ford Dickie氏が、優先的に在庫や発注を掛ける資材を効果的に管理する手法として考案した分析手法です。現在では、製造業の多様な業務における優先順位付けを行う際の定番解析手法として広く使われています。ここからは、製造業におけるABC分析の効果的な活用法について解説します。

 データによる客観的意思決定を後押しするABC分析とは

データによる客観的意思決定を後押しするABC分析とは

重要指標への寄与度を見える化するABC分析とは

ABC分析とは、多様な企業で行われている様々な業務の効率を向上させることを目的として活用されている分析手法のひとつです。売上高、コスト、在庫などを管理する際の重要指標に基づいて、商品や顧客を重要度別にA,B,Cの3つのグループに分類し、優先順位を決定します。

ABC分析は、「売り上げの8割は、全体の2割の商品で生み出している」といった価値や重要度の偏在に関する経験則「パレートの法則」を基礎とした分析手法です。この分析手法では、累積構成比が70%を“Aグループ”、71~90%を“Bグループ”、91~100%を“Cグループ”として分類。これによって、重点的に管理すべき対象を明確化し、効率的な資源配分を可能にします。

製造業において、ABC分析は多様な管理業務のなかで利用されています。具体的には、在庫管理、品質管理、顧客管理、マーケティング管理、コスト管理、リソース管理などです。

価値基準が多様化している時の難しい意思決定こそABC分析の出番

優先順位付けする際にABC分析を活用することで、以下のようなメリットを得ることができます。

まず、経営資源活用の最適化を実現できます。ABC分析を活用すれば、売り上げや利益に大きく貢献する重要項目(Aグループ)を特定できます。これによって、限られた経営資源を効率的に配分し、重要度の高い項目により多く注力できるようになります。一般に、ABC分析によって、商品や顧客の重要度を可視化することで、現状の問題点や改善すべき点を容易かつ明確に特定できるようになります。

また、業務効率の向上も期待できます。重要度に応じて項目をグループ分けすることで、合理性を担保しながら重要業務への集中、不要な作業の削減、全体的な生産性の向上が可能になります。売り上げや利益への貢献度が明確になることで、マーケティングやプロモーション戦略の立案など、データに基づいて効果的かつ効率的に重要な意思決定を下すことが可能になります。

さらに、重要度に応じた最適戦略を策定することが可能になります。例えば、ABC分析を商品の在庫管理に適用した場合を想定してみましょう。Aグループの商品は、欠品によって事業機会を逃すことのリスクが高いので多少余分に在庫を確保しておく。その一方で、Cグループの商品は在庫リスクの方が経営上の問題になるため、必要最低限の在庫に抑える。こうした運用が可能になります。

加えて、ABC分析を定期的に実施することで、戦略・施策の効果を時系列で評価することができます。これによって、戦略・施策の有効性を客観的に評価し、必要に応じて合理的な修正を加えることが可能になります。

パレート分析との連携で、さらに効果的な情報を得る

ABC分析は、パレートの法則に基づいて作られた分析手法であることを紹介しました。ABC分析とは別に、製造業の生産現場において不良品分析などに広く活用されている「パレート分析」と呼ばれる分析手法もあります。パレート分析とは、課題の要因の重要度を可視化し、複数の要因が複合的に作用して課題が生じている場合に、全体の中で大きな比率を占める要因が何かを洗い出す際に利用されています。

そして、このパレート分析で状況を客観的に把握し、ABC分析によって効果的な打ち手を策定するといった連携利用をすることで、さらに効果的な活用ができるようになります。

例えば不良品を削減するためのカイゼン活動において、まず、パレート分析によって80%の不良品を生み出している20%の重大要因を特定。その後、ABC分析によって、それらをさらに細かくランク付けすることで、最適な資源配分で対策すべき施策を決めることが可能になります。一般的には、ABC分析において累積構成比が70%の領域をAグループとする場合が多いのですが、パレート分析の結果を反映させて、Aグループは80%までの領域、Bグループは81~95%の領域、Cグループは96~100%の領域と柔軟に変更し、資源の割り当てを決めることもできます。

 製造業では、多様な業務でABC分析が活用されている

製造業では、多様な業務でABC分析が活用されている

在庫管理に適用して、欠品と無駄のないタイムリーな在庫を実現

ABC分析は、効果的な在庫管理を実現するために考案されたフレームワークであり、現在でも在庫管理業務の中で広く利用されています。製造業だけでなく、小売業、ECサイトの在庫管理でも適用されています。

在庫管理にABC分析を適用する際の主な目的は、過剰在庫や在庫切れのない管理の実現です。売り上げや利益への貢献度が高い商品はより厳密な在庫管理を行い、中程度の貢献度の商品や現状維持、貢献度が低い商品は在庫切れ後の発注や商品の入れ替えを検討するといった措置を取る際の判断材料を得ます。これによって、在庫管理の効率化やコスト削減、機会損失の防止が実現します。さらに、価値の高い商品を重点的に精査することで、より正確な需要予測も可能になります。

また、リソース(時間、労力、資金)の最適配分に向けて利用する例もあります。この場合には、重要度の高い商品にリソースを集中させることになります。さらに、倉庫レイアウトの最適化に向けて適用する場合もあります。重要度の高い商品を最も取り出しやすい場所に配置することで、出庫の作業効率を高めることができます。

生産計画に適用して、市場価値の高い製品を確実に生産

生産計画の策定にABC分析を活用する例も多く見られます。その狙いは、生産頻度や生産ラインの割り当て、部材在庫などの最適化による、重要度の高い製品への注力、生産効率の向上、顧客満足度の向上などです。

生産計画の策定に利用する際には、まず製品ごとの売上高や利益率などのデータを収集することから始めます。そして、製品を売上高や利益率が高い順に並べて累積比率を計算。Aグループ、Bグループ、Cグループに分けます。そして、それぞれのグループごとに個別の生産戦略を立案していきます。

ABC分析を生産計画の策定に適用することで、多くの効果が期待できます。まず、重要度の高い製品にリソースを集中させて、事業効果の高い最適配分が実現します。ただし、需要の変動や季節性、新製品の導入などの要因も考慮に入れて、定期的に分析を更新することが重要になります。さらに、需要の高い製品の生産を優先して供給を安定させることで、顧客満足度を高める効果が期待できます。加えて、重要度の低い製品の過剰生産を抑制できる点も重要な効果のひとつです。

品質管理に適用して、確かな管理をより効率的に実行

品質管理も、ABC分析のよく見られる適用先のひとつです。主に、重要度の高い品質上の問題の特定や品質コストの削減、生産現場のリソースの効果的配分などに向けた、品質改善活動を効果的かつ効率的に進めるための客観的判断材料を得るために利用されます。

品質管理にABC分析を適用する際には、まず、品質上の問題や不良品の発生に関わるデータを収集するところから始めます。問題の発生頻度や影響度を定量化し、大きい順に並べます。そして、累積構成比を計算し、3つのグループに分け、それぞれ適切な対策を立案・実施します。こうすることで、品質改善活動の注力点が可視化され、取り組みの優先順位が明確になります。こうした分析は、複数の観点からの実施することで、より効果的な改善活動の実践が可能になります。さらに、継続的に分析、対策の見直しを行うことで、継続的な品質改善サイクルを確立することができます。

こうした品質管理の手法は、製造業の生産現場だけでなく、経営戦略の策定や製品開発、さらには顧客クレーム分析などにも応用することが可能です。

 効果的で効率的なABC分析に向けたデータ収集と分類指針

効果的で効率的なABC分析に向けたデータ収集と分類指針

効果的な結果を得るためのデータ収集方法と注意点

目的に合った効果的なABC分析を行うためには、まず何より、適切なデータ収集を行うことが重要になります。データ収集時には、以下の点に留意する必要があります。

まず、データ収集の際には、データの精度や一貫性に細心の注意を払うことが重要です。不正確なデータが分析結果に影響を及ぼさないように、センサーや機械から得られるデータの収集手段を精査する必要があります。さらに、収集したデータの欠損や異常値の存在を確認し、必要に応じてデータの補完やクリーニングを行っておく必要があります。また、異なるデータソースからのデータを統合し、一貫性のある形式に整えておくことも重要です。

次に、ABC分析の目的に合致したデータを明確に定義して収集することも重要です。例えば、在庫管理が目的の場合には売上金額だけでなく販売数量も考慮したり、単価の高い商品と低い商品が混在する場合には金額ベースと数量ベースの両方で分析を行うといった柔軟かつ多角的なデータ収集が求められます。

加えて、製造業の商品は、季節性や市場トレンドなどの外部要因の影響による需要変動が大きいため、一時的変動が発生する可能性があることを念頭に置いてデータ収集する必要があります。長期的な傾向を把握するためには、過去のデータを参照し、長期的な傾向を考慮したり、一時的需要の影響が少ない時期にデータを収集したりといった工夫が必要になってきます。

目的に合った結果を得るための分類基準の設定方法

一般的なABC分析では、累積構成比70%までをAグループ、70-90%をBグループ、90-100%をCグループとすることが多いのですが、必ずしも絶対的基準と考える必要はありません。自社の状況や目的に応じて、分類基準を柔軟に設定することが重要です。例えば、在庫の保管場所が限られている場合は、Aグループを全体の50%に設定するなど、現場の実情に合わせた調整が効果的になります。さらに、A、B、Cの3グループではなく、4グループで分類した方が、合理的管理が可能になる場合もあります。

また、多様な分類基準を想定し、多角的にABC分析を行うことで、より精度の高い分析が実現する場合もあります。例えば、商品の重要度を反映した指標として、売上高や出荷数量だけでなく、利益率や在庫回転率など、複数の指標を組み合わせて分析。これにより、単純な売上高だけでは見落とされがちな重要アイテムを適切に評価できるようになる可能性があります。市場環境や企業の状況は常に変化します。このため、ABC分析の結果を定期的に見直し、必要に応じて分類基準や管理戦略を調整することも重要です。

さらに、ABC分析の結果に固執せず、例外も存在することを念頭に置いた対応が必要になる場合もあります。製造業では、売り上げが少なかったとしても、製品の完成に不可欠な部品や、代替が困難な特殊品が存在する場合があります。これらの項目は、通常のABC分析では適切に評価されない可能性があります。別枠で管理するなどの対応をしておく必要があります。

 最新分析支援ツールとデータサイエンスの適用

最新分析支援ツールとデータサイエンスの適用

効果的で効率的なABC分析を支援するデジタルツール

ABC分析は、紙の集計シートやスプレッドシートなどを使って活用することが可能です。ただし、多様な機能を備えるデジタルツールの機能のひとつとしてABC分析機能を備えている例も多く、そうしたツールを活用すれば、より目的に合致した効果的かつ効率的な活用が可能になります。

例えば、企業の基幹業務を統合的に管理するソフトウェアである「ERP(Enterprise Resource Planning)システム」には、多くの場合、ABC分析機能が組み込まれています。製造業では、ERPシステムを、生産管理、在庫管理、品質管理、購買管理、原価管理、財務・会計管理など多くの管理業務に利用しています。いずれもABC分析の適用効果が見込まれる業務であり、ERPシステムで収集・蓄積・管理しているデータを対象にして自動的に分析できます。

様々なデータソースから収集した膨大なデータを分析・可視化するソフトウェアである「BI(Business Intelligence)ツール」の中にも、ABC分析機能を備えるものが多くあります。製造業では、BIツールを生産ラインの稼働状況、在庫レベル、品質指標などを一元管理し、データの中に潜むパターンや傾向を抽出するといったシーンで利用されています。その他にも、需要予測、生産計画の策定、サプライチェーン管理、品質管理などでの意思決定の材料を得る際にも利用されています。BIツールは、多様なデータ分析の手法を並行的に実施できるため、同じデータを対象にして、ABC分析だけでなく他の分析手法も活用した多角的な分析を簡単に行うことができます。

ABC分析にデータサイエンスを導入することの価値

また、近年、製造業においてDXを実践する取り組みが進み、その中でデータサイエンスの知見を活用したデータの収集・分析・活用の重要性が認識されるようになりました。ABC分析を活用する際にデータサイエンスの知見を導入すれば、より精緻な分析と効果的な意思決定が可能になります。例えば、ABC分析は単一の指標に基づいて行われることが一般的です。データサイエンスを適用すれば、複数の指標を同時に考慮した多次元分析が可能になります。

さらに、ABC分析を実践する際のデータの収集や処理、活用においても、データサイエンスの知見が役立ちます。例えば、有用な知見を得る分析を実施するためには、分析対象となるデータの品質を高めることが大前提となります。データサイエンスの知見を活用すれば、より適切なデータの収集方法や欠損値の補完処理、ノイズの除去などの前処理を行うことができます。さらに、A、B、Cの3つのグループそれぞれの特徴を抽出する際のアルゴリズムの選定などにも知見を生かすことが可能です。

 まとめ

まとめ

製品の企画・開発から、生産、供給、メンテナンスまで、製造業の業務プロセスの中では様々な意思決定が行われています。そして、多様な選択肢の中から、製品価値や生産性、顧客満足度などを効果的に高める要因を見つけ出して、リソースを優先的かつ集中的に投入するための優先順位付けに迫られることになります。多種多様で膨大な選択肢を整理して、より効果的かつ効率的な優先順位付けを行う際に、ABC分析の適用は絶大な効果を発揮します。

RX Japan株式会社では、日本最大級の製造業の展示会「ものづくり ワールド」を東京で行うほか、大阪・名古屋・福岡でも開催しております。その中でも、構成展の一つである「設計・製造ソリューション展」では、CAD、CAE、ERP、生産管理システムなど製造業向けの最先端ITソリューションを提供する世界中のベンダーが出展します。

展示会場では、製造業の最先端事例や設計開発の最前線の話題が学べる併催セミナーも開催しています。また、来場だけでなく展示会への出展も受け付けております。気になる方は、お気軽にお問い合わせください。

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執筆者プロフィール

伊藤 元昭

富士通株式会社にて、半導体エンジニアとして、宇宙開発事業団(現JAXA)の委託による人工衛星用耐放射線半導体デバイスの開発に従事。日経BP社にて、日経マイクロデバイスおよび日経エレクトロニクスの記者、副編集長、日経BP半導体リサーチの編集長を歴任。


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